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ケモタキシスアッセイの全自動画像ベースカイネティック測定

ケモタキシスアッセイの全自動画像ベースカイネティック測定

細胞遊走をリアルタイムに可視化



Lindy O’Clair 主任研究員
Clare Syzbut 上級研究員
Daniel M. Appledorn US生物学部門研究開発責任者
Essen BioScience, Ann Arbor, MI

走化性遊走および浸潤は、免疫応答、細胞分化、腫瘍転移などの正常なプロセスおよび病理的なプロセスの多くに重要な役割を果たします。細胞の指向性遊走を制御する要因を研究するには、改良型Boydenチャンバアッセイを用いるのが一般的です。Boydenチャンバーアッセイは、走化性物質の拡散を可能にする多孔質のフィルタによって分離された上部チャンバーと下部チャンバーから構成されています。これらのアッセイから細胞の遊走反応について一定の情報は得られますが、特有の欠点があります。活発な細胞遊走を可視化できないこと、通常はwellあたり50,000から100,000個という多数の細胞を必要とすることなどです。最大の課題は、Taylor氏らによる最近の論文(PLoS ONE, 11(8),2016)で強調されている通り、Boydenチャンバーアッセイは、単一の時点での細胞遊走の測定のみを提供するものであり、研究対象の細胞タイプや使用する走化性因子によって細胞遊走のカイネティクスは著しく変化するので、このタイプのアッセイの実用範囲が限定されてしまうということです。

このチュートリアルでは、標準的な組織培養インキュベータ内で生理学的に適切な条件に細胞を維持したまま、再現可能な96wellフォーマットでケモタキシスの画像ベースカイネティック測定を行うための新技術についてご紹介します。この技術には、Boydenチャンバーアッセイと比べて明確な利点があります。全自動解析、細胞の必要条件の緩和、生物学的に適切な表面基質を使っていること、接着および非接着細胞の両方の細胞形態と細胞運動を単培養でも共培養でも、蛍光ラベルありでもラベルフリーでも観察できること、などです。

IncuCyte® ClearViewケモタキシス細胞遊走アッセイ(エッセンバイオサイエンス、ミシガン州アナーバー)は、位相差や蛍光イメージングを用いて、細胞遊走と形態変化を直接可視化することを可能にする光学的に透明なメンブレンインサートおよびリザーバで構成された96well遊走プレートで行われます。IncuCyte® ClearViewケモタキシスプレートはIncuCyte®装置の中に配置します。この装置は、統合画像解析ツールを備えた全自動生細胞解析システムであり、標準的な組織培養インキュベータの内部に設置したまま使う機器です。統合的な測定は、wellあたり1,000から5,000細胞を用いて遊走反応を正確に定量化するので、血液由来の稀少な初代造血細胞を用いる時に、大きな利点があります。このアッセイ方法は、表面-インテグリンシグナル伝達に感受性が高く、数日間にわたって線形勾配を維持します。その結果、画像と動画で見られる再現可能な96wellのカイネティックデータが得られ、必要なのは、ごく少量の細胞とほんのわずかな設定操作時間です。

全自動解析と可視化

ClearViewプレートメンブレンの下部と上部にある両方の細胞のwell全体の画像が、ユーザ定義された間隔でキャプチャされます。画像はすべて、メンブレンの各側の細胞面積を定量化する全自動アルゴリズムを用いて処理されます(図1)。指向性細胞遊走は、接着細胞のメンブレンの下部側での面積増加、または細孔から下方に移動してメンブレンから脱落する非接着細胞のメンブレンの上部側での面積減少、のいずれかとして閲覧・抽出することができます。

Chemotaxis quantification

図1 ケモタキシス定量解析。HT-1080線維肉腫細胞を、IncuCyte® ClearViewの96-well細胞遊走プレートの上部チャンバに1000細胞/wellで配置。10% FBSを、走化性因子として下部チャンバに追加。画像は、36時間時点でのメンブレンの上側と下側を表している。全自動画像処理で、メンブレンの上面(黄色の線で縁取り)と下面(青の線で縁取り)に位置した細胞を分離する。細孔はオレンジ色で示す。取得時に画像を処理し、データをリアルタイムでプロットできる。

アッセイの再現性

走化性細胞遊走アッセイの再現性と精度を評価するために、Jurkat(非接着)T細胞を用いて4つの独立した一連の実験を行いました(図2)。細胞を、wellあたり5,000細胞の密度で配置しました。CXCL12の2倍希釈をカラム全体(毎)で行い、初期値に対して正規化された位相物体総面積の測定値を30時間にわたってプロットしました。アッセイ内CVは6.3%と、非常に再現性の高いwell間のカイネティック測定が観察されました。HT-1080細胞のFBSへの指向性遊走と、好中球のIL-8、C5a、およびfMLPへの指向性遊走の測定時にも、同様の結果が得られました(データは示さず)。

Precision and reproducibility of directed migration of Jurkat T cells toward CXCL12

図2 CXCL12に対するJurkatT細胞の指向性移動の正確性と再現性。Jurkat細胞を、ClearView細胞遊走プレートの上部チャンバに、wellあたり5,000細胞の密度で配置。2倍希釈のSDF-1α(濃度あたりn=8)をリザーバに追加。

表面接触を介した細胞遊走

ClearViewメンブレンの細孔密度が低いことで、細胞は、確実に、生物学的に適切な表面をわたって走化性因子に向かって移動しなければなりません。コートされていないClearViewメンブレン上に播種された好中球は、走化性因子IL-8とfMLPに向かって遊走することができませんが、マトリゲルでコートしたメンブレン上では明瞭な走化性プロファイルを示しました(データは示さず)。これらのデータは、インテグリンおよび/または細胞表面レセプタと基質との相互作用が、このモデルにおける好中球ケモタキシスに重要な役割を果たしていることを示唆しています。

また、アッセイ微環境、特に、アッセイ培地にアルブミンが存在するタイプの微小環境が、細胞の運動性を支えるのに極めて重要であることも観察しました。0.5% BSAが補充されたRPMI中に懸濁された好中球は、C5aおよびIL-8走化性因子勾配に向かって移動できませんでした。しかしながら、培地に0.5% HSAを補充した時には、好中球はC5aおよびIL-8の両方に向かって活発に移動しました(データは示さず)。図3は、wellの目視検査で、RPMI+0.5% BSA内に分離された好中球(円形phenotype)と、RPMI+0.5% HSA内に分離された好中球(活性型phenotype)とを比較して観察された細胞形態の差を示しています。これらの定量的および定性的データを合わせると、細胞インテグリンと基質の相互作用と、アッセイ微小環境全体が、ケモタキシス細胞遊走アッセイにおいて重要な要素であることが示唆されています。

Morphological images

図3 形態画像:RPMI+0.5% BSA(A)とRPMI+0.5% HSA(B)内に分離された好中球の位相差画像。好中球は、50µg/mLマトリゲル+10% FBSでコートしたClearViewメンブレン上に播種した。1µM C5aに反応して形態的な差を示している(t=20分)。このphenotypeの差は、走化性因子IL-8に暴露された好中球でも観察された。

最新情報

IncuCyte®ケモタキシスアッセイは、全自動定量化で接着および非接着細胞タイプの両方のケモタキシスを測定するための定量的で再現可能な画像ベースアプローチです。このアッセイフォーマットは、定量的測定を支えると共に関連した形態およびphenotypeへの洞察を提供する動画および画像により、走化性勾配に向かう細胞遊走の経時的検出を可能にします。最近の論文で、免疫学や腫瘍学におけるケモタキシスの研究にこのアッセイを用いた例を示しましょう。

Taylor, et.al.,(PLoS ONE,11(8),2016)は、細胞誘導シグナルであるネトリン1の研究にIncuCyte®ケモタキシスアッセイを用いました。著者らは、ネトリン1がヒト単球とマウスマクロファージのC5aへの遊走を阻害することを示しました。C5aは、内皮接着分子を上方制御し、血管透過性を高め、感染部位に白血球と炎症分子を局在させる強力な走化性およびアナフィラトキシン特性を持つ補体ペプチドです。

Pasqualon, et. al.,(Biochimica et Biophysica Acta,1863(4)2016)による研究は、上皮腫瘍細胞における表面発現プロテオグリカンであるシンデカン1が、マクロファージの遊走阻止因子(MIF)結合およびMIF媒介細胞遊走を促進することを示しました。浸潤の研究は、MIFが、細胞増殖に影響せずに、A549がん細胞の走化性遊走、創閉鎖、マトリゲルへの浸潤を誘導することを示しました。これらのMIF誘導応答は、シンデカン1のサイレンシングによって無効になりました。これは、MIFががん細胞の運動性と転移を促進する関連メカニズムを表すのかもしれないと、著者らは結論づけています。E-mail:david.greaves@path.ox.ac.uk.所属:Sir William Dunn School of Pathology,University of Oxford,Oxford, United Kingdom.

がんの微環境と関連要素は、脾臓導管腺がんにおける転移能と薬剤耐性に重要な役割を果たしています。Smigiel, et. al.(Molecular Cancer Research, January 4, 2017)による研究において、IL-6サイトカインファミリーに属するオンコスタチンMが、間葉細胞とがん幹細胞(CSC)のphenotypeの重要なドライバとして識別されました。オンコスタチンMへの暴露後に間葉/CSC特性を持つ細胞の生成は、発がん性の促進、転移の増加、脾臓がん治療に用いられる化学療法薬であるゲムシタビンへの耐性につながりました。

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